佐久の花酒造


清川 | 山恵錦
  

四季折々の風景を楽しむ清川地域

日本人の食生活にとって米は主食であり、日本酒の原料も米です。日本人の米への愛情は世界的にも特に深いと言えるでしょう。稲作は日本だけでなく、アジアからアメリカ、南米諸国まで多くの国々で行われている中で、日本では特に水田を取り入れたことで稲作が発展しました。通常、同じ土壌で同じ科の作物を作り続けると連作障害が起きることがあるのですが、水田は豊富な水でこれを解消しており、ほぼ永続的に栽培が可能です。ではなぜ水田には多量の水が溜まっていられるのでしょうか。水田の土には有機物が豊富な作土層の下に、粘土質の鋤床層(すきどこそう)があります。この鋤床層は非常に重要で、水田を囲む畦にも粘土を塗り、水漏れを防ぎます。こうして水が逃げずに十分に溜まることで、稲に栄養が行き渡り、成長を促し、美味しい米を実らせるのです。

佐久の花酒造が水田を所有する佐久市の清川地域は、鋤床層の粘土質が強く、特に水もちが良く、ここで育てられた米は美味しさも評判。5代目蔵元の高橋寿知(たかはしひさとも)さんが「自分たちが思い描く浅間山はここから見るこの形」というように、小さい頃から見てきた浅間山がはっきりと眺めることができ、見晴らしが良く、柔らかく優しい風が常に吹いています。「水もちの良い土壌で、稲に栄養がまわり、風通しが良くて病気にもなり難く、日当たりも良くて生育が良い。黙っててもいい米が出来ちゃうんだよ」と、自然の恩恵を存分に受けられる最高の場所だといい、ここで酒造好適米「ひとごこち」を育てています。水田の周りには木々も生き生きと生い茂り、夏は青い空と木々の新緑、稲が色濃く成長する時期にはコントラストが美しく、秋は黄金色の水田と紅葉、稲の成長と共に季節の移り変わりを感じることができる場所です。清川の集落近く、県道沿いには神社も鎮座しています。境内は小さく、本殿とその覆い屋を兼ねた拝殿だけというシンプルな造りですが、諏訪神社の系統ということで地域の人々も立ち寄ることがあるようです。諏訪神社に見守られた水田は、永遠に続いてほしいと感じるほど、いつまでも眺めていたくなる美しい景色です。

桜が舞う龍岡城と巨大パラボナアンテナ

線が走り抜ける光景を見ることができます。ここには駅名にも冠した「龍岡城五稜郭」が存在します。1867年に田野口藩主の松平乗謨(まつだいらのりかた)によって築かれたこの城は、五つの稜が星形に広がる擬洋式の城郭です。函館の五稜郭と並び、日本にはたった2つしか存在しません。現在は城自体は取り壊され、御台所として使用されていた建物だけがその名残を留めています。春には堀に並ぶ桜が満開になり、ソメイヨシノやベニヤマザクラなどさまざまな種類の桜を花見できる名所として知られています。遠くを見渡すと、パラボラアンテナが目に入ることでしょう。実は、日本国内の巨大パラボラアンテナのトップ3は、すべて佐久地域に集まっています。第1位は直径64m、JAXA 臼田宇宙空間観測所のアンテナで、ハレー彗星を追尾する探査機「さきがけ」と「すいせい」による観測のために1984年に佐久市に設置されました。このアンテナの老朽化のため新たに建設されたものも直径54m。JAXAによれば、佐久地域は高地に位置し、寒冷な地でありながら積雪が少なく、宇宙観測に適した場所だとのこと。水田にとっても恵まれた環境、観光スポットも充実し、宇宙観測にとっても理想的なロケーションは日本唯一かもしれません。

地産地消の地酒へ

臼田に蔵とアンテナショップを構える佐久の花酒造は、戦時中の休業を経て、再び酒造りを開始した復活蔵です。現5代目蔵元である高橋寿知さんは、工業大学を卒業後、東京で職に就き、31歳の時に蔵へ戻ってきました。専務と杜氏を兼務して経営と製造両方の責任者として先頭に立ちならが、水田を管理して米作りを行うなど苦労を重ねてきました。ただ、先代から農業をやっていたために米作りは自然な流れで、土壌に恵まれた清川地区を含むほとんどの自社水田で、ひとごこちを育てています。米作りの経験はありましたが、酒造りに関しては素人同然。この状態で醸造の舵を取るのは困難です。そこで酒造りの技術向上のために彼が行ったことは、使用する品種をひとごこちに絞ることでした。「まずはこの米で美味しい酒を作ろう」と決め、現在では多くの蔵が行なっている小分けの洗米、分単位の限定吸水といった大吟醸に使う手法を他の製品にも広げ、手間を惜しまず丁寧に作業することを心がけていきました。そのおかげで醸造技術も上がり、確実に味にも反映され「佐久の花」の評価も上がっていきます。酒造りも順調に進み、売れ行きも好調になったことにより、ひとごこちは寿知さんにとって思い入れ深い酒造好適米となりました。

ひとごこちは寒冷地に適した特性を持つ品種であり、自社水田でも高い収量と品質を実現し、フレッシュ感炸裂の『佐久の花 純米大吟醸 無濾過生原酒』に全量使用できるようになりました。他の商品は契約農家のひとごこちを使用し、長野D 酵母の良さが全面に出たフルーティーで華やかな『佐久乃花specD 純米吟醸無濾過生原酒』、爽やかで低アルコールで飲みやすい『佐久乃花39-87 純米吟醸 』などラインナップも豊富になっています。これら佐久の花の商品は、ひとごこちで醸した綺麗な酸のお酒として全国で定着しました。ただ、「いい酒を作ってもみんな東京に行ってしまうんだよ」と寿知さん。蔵を継いだ時も販路を求めて関東圏に営業に行き、それによって全国でお酒が売れ知名度が上がり、利益に繋がったのは事実。しかし「自分で作った米で自分で造った酒だからこそ、もっと地元で消費したいと思うよ」と言います。だからなのでしょうか、チリチリとした発泡感が魅力の『裏佐久乃花 辛口 吟醸無濾過直汲』は長野県内限定。こういった地域限定商品の展開も、地元への愛情から生まれているのかもしれません。

佐久乃花 純米吟醸 無濾過生原酒

自社水田で栽培されたひとごこちは、すべて新酒の時期に造られる「佐久乃花 純米吟醸 無濾過生原酒」に使用されます。直汲みのピチピチとしたガス感、フレッシュで青々しい生酒の香り、まさに原酒といったアタックとボリュームのある味わい、佐久乃花特有の爽やかでジューシーな酸が特徴です。

酒米:ひとごこち
精米歩合:59%

佐久の花酒造株式会社

Sakunohana Sake Brewery
呑んだ時顔がほころぶような酒を造りたい

八ヶ岳と浅間山に囲まれ、千曲川の上流にあり、清らかな水と空気、冷涼な気候は酒造りに適している。また、佐久は長野県でも有数の穀倉地帯で、良質な米が収穫されている。当社も良質な水田において自社で酒米を栽培をしている。恵まれた環境の中、「和醸良酒」の言葉の通り、蔵人一同うまい酒を造りたいという気持ちで一つになって酒造りに取り組んでいる。

長野県佐久市下越620
TEL:0267-82-2107
蔵見学:不可(アンテナショップで試飲可)

佐久の花酒造株式会社
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