芙蓉酒造


野沢 | 高原のしずく
  

学生と共に成長するコシヒカリの水田

佐久市野沢は美しい高原の町。その歴史は古く、江戸初期に新田開発が行われ、商業的にも重要な地域でした。この地域には「ぴんころ地蔵」という地蔵尊があり、その名は「健康で長生き(ピンピン)し、楽に大往生(コロリ)する」という意味を持ち、健康と長寿の象徴とされています。その影響か、佐久市の方々は亡くなる直前まで元気に暮らすというデータがあるほどで、食文化が健康を保つ要因のひとつとされています。この野沢周辺は千曲川の伏流水を利用して佐久鯉の養殖が盛んであり、その良質なタンパク源が地域の健康に寄与しています。そして、何よりこの地域はコシヒカリの生産地として知られ、「高原のしずく」というブランド米が特に有名です。

特定の肥料を使用し、節減対象農薬を5割減、化学肥料は9割減にするという厳しい規定をクリアしたコシヒカリのみが「高原のしずく」として名乗れるのです。この米を育てている生産者、小泉重幸さんの水田は野沢南高校の目の前に位置しています。生徒たちが元気よく通学する様子が伺え、農作業中に「おはようございます!」と挨拶が飛んでくることもあるようで、老若男女を問わず元気で、温かい人柄を持つ方々が多いことが感じられる場所。しかし、2023年現在、野沢南高校は廃校が決まっており、野沢北高校と統合される予定。この変化により、学生たちと「高原のしずくが一緒に見る事ができるのはあとわずか。今のうちに目に焼き付けておきたいものです。

食用米から生まれる酒造り

小泉さんは「こんなに美味しい米なのだから、この米を使って地元の酒蔵で日本酒にしてほしい」と考えていました。しかし芙蓉酒造の5代目である方伯(まさみち)さんに相談したものの、頷いてくれることはありませんでした。それは、飯米で酒造りをすることが常に困難だからです。日本酒の原材料である米は基本的に酒造好適米が使用されます。米の外側には、日本酒を造る上で悪影響を及ぼす可能性のある物質、タンパク質や脂質があるため、ある程度削り取る必要があります。そこで大粒で割れにくい米が好まれるのです。特に重要なのが心白(しんぱく)という米の中心部分にあるでんぷん質のかたまり。このでんぷん質は密度が低く隙間が多く空いているため、麹菌を食い込ませやすく、糖化させることが出来るのです。この心白を持たない飯米では酒造りが難しく、特に粘りの出やすいコシヒカリは酒造りに重要な麹造りが困難。この課題に挑戦したのが、芙蓉酒造の6代目である昂憲(たかのり)さんです。当初は非常に苦労したといい、「最初の頃のお酒はやんちゃでした」と語ります。しかし、試行錯誤を繰り返し、今では安定した品質のお酒を醸造することができるまでになりました。

楽しさ満載!賑やかなラベルの『よよいの酔』

この水田で育てた「高原のしずく」を使用して醸造されるお酒が、芙蓉酒造の「よよいの酔」。賑やかで可愛らしいラベルが目を引きます。フルーティーな香りが広がりますが、アタックはしっかり目、飲み口はしっかりとしています。原酒ならではの滑らかでとろみのある口当たり、甘みの余韻が続いた後、アルコールの苦みと高めの酸で引き締まります。飲みごたえのあるお酒ですが、そのバランスの良さから重たく感じることはありません。「初めてお酒になった時は感動しました」と小泉さん。3年間という長い交渉の末、念願の高原のしずくの日本酒が誕生したことに感慨もひとしおです。芙蓉酒造の昂憲さんは「素晴らしいコシヒカリ。その出来上がった米を酒にするだけ」と、毎年上質な米を届けてくれる小泉さんを信頼しています。念願だった高原のしずくの日本酒が完成し、それを醸し続ける芙蓉酒造。今後も食用米からの酒造りを続けるというその姿勢には、地域の農産物と酒造りの結びつきを大切にし、美味しい日本酒を提供し続けるという意志が込められています。

よよいの酔

フルーティーな香りが広がりますが、アタックはしっかり目、飲み口はしっかりとしています。原酒ならではの滑らかでとろみのある口当たり、甘みの余韻が続いた後、アルコールの苦みと高めの酸で引き締まります。飲みごたえのあるお酒ですが、そのバランスの良さから重たく感じることはありません。

芙蓉酒造株式会社

Fuyou Sake Brewery
人と人、心と心を酒でつなぐ

1887年(明治20年)創業。佐久の東、荒船山の麓で創業以来酒を醸し続ける。代表銘柄「金宝芙蓉(きんぽうふよう)」とは、「最上級の美しさ」を意味し、酒造りに対する姿勢や生まれてくる酒に込めた願いの表れである。風土の恵みが与える多様性を尊重し、最大限に活かした手仕事の酒造りをモットーとしている。全国各地の地域産品を活用した焼酎加工事業も広く手掛けている。

長野県佐久市平賀5371−1
TEL:0267-62-0340
蔵見学:不可

芙蓉酒造株式会社
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