土屋酒造店


下小田切 | 山恵錦
  

厳しい有機JAS認定を取得した水田

佐久市清川のやわらかな風景の中、有機農業を愛情込めて実践するのは田島さん。彼は米作りに加えて、ハウスのトマトや露地栽培の野菜を育てています。驚くことに彼のルーツは東京で、マスコミ関係の仕事でした。当時は農業についての記事を書いていたこともあり、農家の苦労や農業関係のこれからについてはよく理解していました。それ故に、自分自身が農業に関わるとは全く考えていなかったそうです。しかし、運命は予測できないもの。あるとき、全国有機農業者マップに、のちに田島さんの師匠となる人が掲載されており、それを見て「有機栽培でミニトマトを試してみたい!」との思いから、佐久を訪れました。有機農法を学びつつ、師匠の水田で手伝い始めると、かつては考えられなかった米作りへの情熱が湧いてきました。

。「どうしてだか、日本人としての血が騒ぐのか、あるいはDNAに刻まれた何かが目覚めたのか、いつしか自分も米作りに魅了されていました」と田島さんは語ります。有機農業は作業の大変さ、難しさはもちろん、有機JAS認定の取得は非常に厳しいものです。栽培履歴、資材がひとつひとつ有機に適合しているかなど大量な情報を記載して国に提出しなければならず、何より重要なのは丸3年間有機栽培をしていた実績が必要で、1年目で認定されるのは不可能。ところが田島さんは、師匠から圃場を譲ってもらったのです。「自分が手塩にかけた土地を譲ってもらえるなんて、本当に嬉しかったし助かりました」と、感謝の気持ちを述べられます。田島さんが信頼できる人柄だからこそ、師匠である大塚さんも圃場を預けたのでしょう。そのおかげで2007年に佐久へ移住し、2008年には農家として開業。初年度から有機栽培で米や野菜を作っているのです。

土屋酒造店との出会い

1900年に創業した土屋酒造。元々は別の地域で酒造りを行っていましたが、佐久に移り住んできたため、佐久地域の他の酒蔵と比較すると後発組でした。それでも、県内でもいち早く吟醸酒造りに取り組むなど、進取の精神に溢れた蔵元です。6代目の蔵元、土屋聡(つちやさとし)さんは頭の回転が速く、より高品質な酒造りを行うためには挑戦をためらいません。NAGANOWINEを全国に広めた立役者、マスターソムリエの高野豊さんが「有機栽培で何か面白いことをやらないか?」と話を持ちかけたのも聡さんだから。これをきっかけに有機農家の田島さんと知り合うことになり、有機の酒造好適米を使うことになります。しかし、田島さんも酒造好適米を栽培するのは初めてのことでした。コシヒカリの栽培で忙しい中、更に酒造好適米を手がけることに躊躇していましたが「地元の企業を支援しなくてどうする」という師匠の強い言葉に背中を押され、山恵錦の栽培を始めたのです。その後、聡さんも高野さんとのプライベートブランドを立ち上げていくうちに有機米の良さを実感し、田島さんの育てる山恵錦を使った『茜さす BIO』が完成することになります。

土壌が良いからこその苦労

田島さんが手がける水田は、稲にとって非常に良い環境です。水田には灰色低地土と褐色森林土という二つの土壌があり、灰色低地土は機械作業が行いやすく、肥料の管理もしやすいのが特徴。一方で田島さんの水田は褐色森林土という粘土質の土。まさに粘土の状態であることから、水がたまりやすく、稲の成長に適した土壌とされています。ただし、機械作業は困難を伴い、コンバインのクローラーが外れたこともあるほど。「米は収穫の適期が大事。灰色低地土は収穫する日を狙って作業が出来るけど、褐色森林土は狙った時には入れない時がある」と苦労を語ります。人間が作業するにはデメリットが多い土も、作物にとっては恵まれた場所。その土地に投じた苦労は、最高品質の米として報いられます。「有機栽培は基本的に子供に風邪を引かせないように育てていくようなもの」と田島さん。

体調が悪ければ薬を飲むということが出来ないからです。通常の慣行栽培では肥料を与えればしっかりと栄養を供給できますが、有機栽培は気温が高い時には栄養分が最大で8割効果を発揮し、寒い時にはその効果が2割まで減少することもあります。天候の影響を受けやすく、ここ数年は特に農作業が苦労を伴うことが多かったそうです。「その都度、その作物の最適な姿がある」というように、有機栽培はシビアな農法。巻き返しが効かないため、種まきから稲刈りまで理想の形に育てていかなければなりません。それでも有機栽培は生き物と対峙している実感があり魅力的だといいます。「有機というのは生態系の循環を大切にする考え方です。作物そのものの生命力を大切にするアプローチ方法が自分に合っていたのかもしれません」と田島さん。作物の生命力、土壌の力、有機農法、微生物の働きを生かす酒造り、土屋酒造の高い技術の結晶で完成したのが『茜さすBIO』。出来上がったお酒はもちろん飲んでいます!と田島さんも嬉しそう。フルーティーな香りと滑らかな口当たり、上品なうま味、綺麗な酸が調和された上質な味わいです。

茜さす BIO

田島さんが苦労を重ねて育てた山恵錦と作物の生命力、土壌の力、有機農法、微生物の働きを生かす酒造り、土屋酒造店の高い技術の結晶で完成したのが「茜さすBIO」。フルーティーな香りと滑らかな口当たり、上品なうま味、綺麗な酸が調和された上質な味わいです。

株式会社土屋酒造店

Tsuchiya Sake Brewery
人々の想いを醸す蔵

「喜びの宴に供されたい」と願い、まことにおめでたいの意「亀壽福海」より酒名を「亀の海」とし百有余年、歴史ある木造蔵で芳醇な酒を醸す。以前より品質に対するこだわりは、長野県下先駆けて吟醸酒の市販化や、全麹による無添加の甘酒の製造で表現してきた。さらに近年では佐久市・浅科五郎兵衛新田での農薬に頼らない酒米で醸す酒にもチャレンジ。地域の人々と共に歩む「人々の想いを醸す蔵」。

長野県佐久市中込1914-2
TEL:0267-62-0113
蔵見学:一部可(要予約)

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